売上計上の基準

●売上計上の基準(いつ売上とするか)
●売上計上の具体的基準
●商品等の販売による収益
●検収基準が合理的でない場合
●輸出取引における収益の認識
●土地の譲渡収益計上時期
●請負契約の場合の収益計上時期
●長期大規模工事の場合の益金算入時期
●プリペイドカードや商品券の売上

売上計上の基準(いつ売上とするか)
「いつの時点で売上とするのか」、なぜ、こんな決まり切ったことを取り上げるのかと思っている方いませんか?

 実は、認められる売上の計上時期は一つだけではないのです。

通常の商品の販売で考えられる時期を挙げてみます。
 (1)商品の売買契約が成立した日
 (2)顧客の注文により商品に手を加えた日(オプション部品の取り付けなど)
 (3)商品を発送した日
 (4)輸出の場合の船積みの日
 (5)顧客に商品が到着した日
 (6)顧客が検収した日
 (7)約束の代金回収期限が到来した日
 (8)代金を回収した日

 スーパーやコンビニでは、上の(1)から(8)の取引が同時に行われますが、一般の会社ではそれぞれ時期が異なることが多いのです。

税法では具体的に定めず、一般に認められた会計処理の基準によっていれば認めています。一般的に上記の(3)から(6)の間がそれに該当します。
売上計上の具体的基準
上記で、一般に認められる売上計上の基準が複数あることを取り上げました。引き続き、個々の基準について取り上げます。

1) 発送基準
店舗、工場、倉庫などから商品を出荷した時点で売上計上する基準です。最も一般的ですが確認の書類が残りにくいものですから、特に事業年度末に近い時点では出荷記録を残して事実を明らかにする必要があります。

2)到達基準
 取引の相手方に納品されたときに売上とする基準です。具体的には納品書の受領印の日付で売上とします。取引の証拠という点ではより確実です。

3)検収基準
 納品した品物を相手方が検査して受け入れた時点で売上とする基準です。機械など試運転を要する場合に多く採用されます。

4) 船積基準
 輸出品について多く用いられている基準で、BL(船荷証券)の日付で売上とします。

 このように、複数の基準を認めていますが、一度採用した基準は継続して適用することを求め、正当な理由なく変更することはできません。

 なお、これらの基準は法人税法に規定がありません。法人税法では「収益や費用の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と規定し、上記の基準は正に「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従っているわけです。

 法人税法には、法人の選択にまかせられている部分が随所にあります。だから、会計処理をし、納税申告書を作成する場合、私ども専門家が同じ取引を複数の者が処理した場合にまったく同じ納税額になるとは限りません。むしろ、同じ結果になることはほとんどないといってもよいでしょう。

 税法の難しいところでもあり、また、おもしろいところでもあります。
商品等の販売による収益
 法人税法においては、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。その場合の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。」(法人税法第22条第2項、第4項) と規定するとおり、法人税法とともに会計学の知識も必要です。

 企業会計は、収益をその実現した会計期間において認識します。「収益の実現」とは、商品製品などの棚卸資産にあっては、原則として商品を引き渡したときということになります。

 法人税法でも、次の通りの通達があり、基本的に会計学の取り扱いと変わりがありません。

 「棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。」(法人税法基本通達2-1-1)
 「棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、例えば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。」(法人税法基本通達2-1-2)

 「出荷した日」とは、文字通り当社の倉庫から運送業者のトラックに積み込んで出荷した日であって、相手方に到着していない場合であっても、その時点で売上計上することになります。法的には相手方に到着し、品物を確認し受け取ったという意志が表明された時点で「引き渡し」があったということになりますが、実務においては出荷の時点で売上計上することがむしろ普通で税務においてもこれを認めているといえます。

 「検収」とは、納品の相手方が注文した品を、数量・種類などを点検して受け取ることで、検収基準は製造業者間の取引で多く用いられています。

 機械販売では、購入先に機械を据え付け、試運転をして使用可能な状態にした時点で販売が完了する場合があります。このようなときは「使用収益ができることとなった日」をもって収益計上を行うこともあります。
検収基準が合理的でない場合
 「販売」をいつの時点ととらえるのかについて、複数の認められる基準がありますが、いずれの場合にも「継続して適用すること」に加えて「その基準が合理的であること」が条件です。

 検収基準は、納品の相手方が注文した品を、数量・種類などを点検して受け取った時に収益を計上する基準で、法的にも売上債権が確定したと認められる基準です。

 ところが、検収のつど検収書を発行しないで、数日間の検収分をまとめて検収書を発行するなど、検収の日が事実と食い違うことがあると検収基準が合理的とはいえません。また、注文の品に間違いがない限り自動的に商品を引き取るという契約内容のときなども検収基準が合理的といえないでしょう。

また、自動車の販売のように登録してから納品(納車)する商品の場合には、登録手続きに入る時点ですでに所有権が移転していると考えられ、登録完了後の納品し受領印をもらった日を販売の日とし、売上計上するのは合理的といえないでしょう。これは既製服販売で、寸法直しをした後納品するケースにも当てはまるでしょう。

 合法的な処理だと思っていたことが不合理と判断され、思わぬところから税金を追徴されることがあります。売上げの計上時期などは十分に検討して疎漏のないようにしましょう。
輸出取引における収益の認識
 輸出業における収益計上基準には、出荷基準、通関基準、船積日基準、船荷証券等作成日基準、船荷証券引渡基準(荷為替取組日基準)、揚地条件受渡日基準等などがあるとされています。一般的には船積日基準によることが多いようです。

 所有権の移転という観点からは、船荷証券引渡基準を採用すべきという意見があります。船荷証券は商品の所有権を表象する証券であり、その引渡が所有権の移転の時期だというのがその根拠となっています。しかし、船荷証券はそれ自体が有価証券として流通することから、商品そのものとはいえないという側面も持っています。

 結局は、取引慣行や契約内容から合理的な基準を求めることになりそうです。

 F.O.B(本船渡)の場合は、商品等を本船に船積みした時点をもってその所有権及び危険負担が売主から買主に移転します。このような契約条件では船荷証券引渡基準が合理性がないとされた審判事例があります。少々長くなりますが、不服審判所の裁決事例を紹介します。
  
◎輸出取引に係る収益計上基準として船荷証券引渡基準(荷為替取組日基準)は公正妥当な会計処理の基準として相当なものとはいえず、船積日基準によるのが相当であるとした事例(昭61.12.8裁決)
 請求人は、船荷証券は商品を表象する有価証券であって、その引渡しによって商品の所有権が移転するものであるから、船荷証券を荷為替手形に添付して銀行に引き渡す日を商品の引渡しの日とする船荷証券引渡基準は法人税基本通達に定める引渡基準に該当すると主張するが、船荷証券引渡基準は、貿易慣習における所有権及び危険負担の移転時期に合致しない基準であり、また、売主は荷為替手形を銀行に売り渡すことにより、初めて輸出商品に対する所持・支配を失うものでなく、しかも、引渡しの時期を比較的自由に決定できるし意性が入り込む余地があるものであるから、公正妥当な会計処理の基準として相当とはいえない。結局、商品の占有移転の時期及び経理実務の慣習からみて、輸出取引の収益計上基準としては、船積日基準によるのが相当である。

 輸出取引を行わない会社でも、「合理的な収益計上基準」を考えるに当たって参考になる裁決事例でしょう。
土地の譲渡収益計上時期
 土地を譲渡する場合、売買契約の日と引き渡し(所有権移転登記)の日の間に1ヶ月から場合によっては数ヶ月かかることがあり、事業年度をまたぐ取引となることが珍しくありません。また、その金額も大きくなることから、どの年度の収益とするのかということが実務上も問題となるところです。

 土地についても基本通達2-1-14のとおり、商品と同様「引渡基準」を原則としています。また、以下のただし書きのように契約日基準も認めています。

 固定資産の譲渡による収益の額は、別に定めるものを除き、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。ただし、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、法人が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日の属する事業年度の益金の額に算入しているときは、これを認める。(法人税法基本通達2-1-14)

 山林などの分譲の場合には、引き渡しの時期が曖昧なことがありますので次の通達のように、半分以上の代金受領日と登記申請日のいずれかとすることも認めています。

 棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる。(法人税法基本通達2-1-2後段)
(1) 代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日
(2) 所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日
請負契約の場合の収益計上時期
 建設業など請負契約の場合の収益計上時期については、以下の通達のように原則として引渡基準(工事完成基準)を採っています。

 請負による収益の額は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入する。(法人税法基本通達2-1-5)

 「引き渡した日」については、以下のように作業終結日、検収完了日、使用収益可能日などのうち「合理的」な基準の選択を認めています。

 請負契約の内容が建設、造船その他これらに類する工事を行うことを目的とするものであるときは、その建設工事等の引渡しの日がいつであるかについては、例えば作業を結了した日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を完了した日、相手方において使用収益ができることとなった日等当該建設工事等の種類及び性質、契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。(法人税法基本通達2-1-6)

 以下のように、工事進行基準(工事の進捗に合わせて部分的に収益を計上する方法)も継続適用を要件として認めています。

 法人が、工事の請負をした場合において、その工事の請負(損失が生ずると見込まれるものを除く。)に係る収益の額及び費用の額につき、着工事業年度からその工事の目的物の引渡しの日の属する事業年度の前事業年度までの各事業年度の確定した決算において政令で定める工事進行基準の方法により経理したときは、その経理した収益の額及び費用の額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額及び損金の額に算入する。(法人税法64条第2項)

 すなわち、長期大規模工事を除いて、原則として工事完成基準としながらも工事進行基準も認めるというように会計上の考え方を取り入れているといえるでしょう。
長期大規模工事の場合の益金算入時期
 長期大規模工事の場合の益金算入時期の規定は、平成10年に新たに定められた新しいものです。具体的には次の通りです。

 法人が、長期大規模工事の請負をしたときは、その着手の日の属する事業年度からその目的物の引渡しの日の属する事業年度の前事業年度までの各事業年度の所得の金額の計算上、その長期大規模工事の請負に係る収益の額及び費用の額のうち、当該各事業年度の収益の額及び費用の額として政令で定める工事進行基準の方法により計算した金額を、益金の額及び損金の額に算入する。(法人税法64条第1項)

 長期大規模工事の範囲については法人税法施行令129条を確認してください。

 請負工事の収益認識基準をまとめると、次のようになります。
(1)長期大規模工事・・・工事進行基準
(2)(1)以外の工事で損失が見込まれないもの
           ・・・工事完成基準と工事進行基準の選択適用
(3)(1)以外の工事で損失が見込まれるもの
           ・・・工事完成基準
プリペイドカードや商品券の売上
 プリペイドカードや商品券(以下、商品引換券等ということにします。)を販売し、後日、その商品引換券等と引き替えに商品を販売する。近頃では当然のごとく行われる取引です。
 今回は、商品引換券等の販売と収益計上時期について考えます。

 プリペイドカードや商品券は商品との引き替えを約束する有価証券であって、その販売の段階では商品を引き渡す義務(債務)が残ります。理論的には、商品券を発行した時点では商品引渡義務という債務の発生であって、収益を計上すべきではありません。商品を引き渡したときに収益を計上するのが会計理論上の正しい処理です。

 しかし、プリペイドカードや商品券はそのすべてが使用されるとは限りません。現に私は、使う見込みのないテレホンカードを何枚か仕舞い込んでおります。そこで、税務は以下のように原則として商品引換券等を発行した年度に収益を計上し、その原価を見積もり計上することを原則としています。

 法人が商品の引渡し又は役務の提供を約した証券等(商品引換券等)を発行するとともにその対価を受領した場合における当該対価の額は、その商品引換券等を発行した日の属する事業年度の益金の額に算入する。(法人税法基本通達2-1-39)

 もちろん、会計上の考え方も取り入れて、発行年度は収益を計上せず、商品と引き替えをした年度の収益とすることも条件付きで認めています。少々長くなりますが、関係通達を紹介します。

 法人が、商品引換券等(その発行に係る事業年度ごとに区分して管理するものに限る。)の発行に係る対価の額をその商品の引渡し等(商品引換券等に係る商品の引渡し等を他の者が行うこととなっている場合における当該商品引換券等と引換えにする金銭の支払を含む。)に応じてその商品の引渡し等のあった日の属する事業年度の収益に計上し、その発行に係る事業年度終了の日の翌日から3年を経過した日(同日前に有効期限が到来するものについては、その有効期限の翌日とする。)の属する事業年度終了の時において商品の引渡し等を了していない商品引換券等に係る対価の額を当該事業年度の収益に計上することにつきあらかじめ所轄税務署長の確認を受けるとともに、その確認を受けたところにより継続して収益計上を行っている場合には、この限りでない。(法人税法基本通達2-1-39ただし書)

 私は、以前からこの通達に疑問をもっています。商品券の発行金額のうち、どれだけが現実に引き替えられ、未だ引き替えられていない商品券がいかほどあるかという管理をすべきは当然として、会計上当然あるべき基準を選択するに当たって、なぜ税務署長の確認が必要なのかという点です。