棚卸資産

●棚卸資産の取得価額
●棚卸資産の評価方法
●在庫と売上原価
●在庫計上を省略できる消耗品等
●商品等の評価損

棚卸資産の取得価額
 商品などを棚卸資産といいます。棚卸資産には商品のほか製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵品などがあります。

 棚卸資産の取得価額は購入価額、製造原価に付随費用を加えた価額とされています。購入代価は比較的明確で税務当局との争いも少ないのですが、付随費用については争点の多いところです。

 付随費用には次のものがあります。
(1) 購入のために要した引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税などの購入のための費用
(2) 購入後、商品等を販売するために直接要した検収費、保管費、販売場所への移送費用など

 上記の内、(1)の費用は必ず取得価額に含めますが、(2)の費用は(購入価額+(1)の費用)の3%以内であれば取得価額に含めないことも認めています。

 国内の取引であれば付随費用はあまり大きな比重を占めませんが、輸入品は買付価額より引取運賃等の費用が大きくなることも珍しくありません。
棚卸資産の評価方法
 商品等の棚卸資産の価額は、商品等の数量と単価が重要な要素となります。損益計算においても棚卸資産の評価額が直接当期利益に影響があります。
 この内、数量は実地に調べた数ということで実務上の問題がないところですが、単価の計算は、先に述べたように購入代価、製造原価に付随費用を加算した金額となりますが、時期や取引先によって買い入れ価額に変動があることがありますので選択した評価方法によって期末棚卸資産の評価額に差異が生じます。税法上認められる評価方法は次のとおりです。

一、原価法
1個別法
 個々の商品ごとの取得価額で評価する方法で、商品ごとに規格の異なるものの評価に適している。

2先入先出法
 先に仕入れた商品を先に払い出したものとして残った商品の価格を計算する方法。

3総平均法
 計算期間中の加重平均した単価で商品の価格を計算する方法。

4移動平均法
 商品仕入れの都度、平均単価を求める方法

5単純平均法
 計算期間中の平均した単価で商品の価格を計算する方法。4が加重平均に対し6は仕入数量に関係なく平均単価を求めることが異なる。

6最終仕入原価法
 期末に最も近い日に仕入れた単価で計算する方法。

7売価還元法
 売価で商品等の価額を計算し、期間の原価率を掛けて原価に戻す方法。原価計算を行っていない製造業では比較的簡便に価額を算定できる。

二、低価法
 上記で求めた評価額と時価を比較していずれか低い方で評価する方法。

棚卸資産とは、いわゆる在庫のことです。税務調査では在庫が正しく計上されているかどうかということは、必ずチェックする重要項目とされています。売上げや仕入れと違って、在庫は取引の相手がありません。会社の内部調査によって確認し計上するものだけに恣意性が介入しやすい(誤魔化しやすいともいえる)から税務署も重点的に調査するわけです。
在庫と売上原価
 法人税の税務調査では、必ずといっていいほど在庫の正確性を調べます。今回は、在庫(棚卸商品)と売上原価の関係を考えます。

 原価1万円の商品50個をを70万円で売却したときは売買益(売上総利益)は20万円となります。

 では、次の場合には売上総利益の計算はどうするのででしょう。当期に事業を開始したものとします
商品(単価1万円)を75個仕入れ、このうち、50個を単価14,000円で販売した。25個は期末の在庫として残っている。
  売上高  :50個×14,000円=700,000円
  売上原価 :仕入高750,000円-在庫250,000円=500,000円
  売上総利益:売上高700,000円-売上原価500,000円=200,000円
 というように、上段のケースと同じ結果となります。ここでは、わかりやすく1種類の単価の商品のみで考えましたが、実務上は多くの品目が取り扱われることから、この計算が複雑になるだけです。この例で「在庫」が売上総利益計算の上で重要だということがおわかりいただけると思います。

 売上げや仕入れは他者との取引に基づく金額ですが、在庫は会社内部で数量を調査し、これに基づいて金額を計算します。保存書類も納品書や請求書があるわけでなく会社で作成した「在庫調書」だけです。それだけに利益調整の容易な箇所として税務署も重点調査項目としているわけです。上記の例でも在庫数量を20個とすれば、売上総利益は150,000とたちまち5万円減少します。

 会社としては、在庫調書のほか実際に数量をあたったときに記入した書類(税務署では「原始記録」という)も保存するのが望ましいでしょう。
在庫計上を省略できる消耗品等
 事務用文具や作業用消耗品、包装材料などで期末において未使用のものは棚卸資産として在庫計上するのが原則です。しかし、会計上これらは金額的にも通常はわずかで当期の損益に及ぼす影響が少ないことから重要性の原則を適用できることになっています。法人税法においても、次の通達のように取得した年度の費用処理を認めています。

 消耗品その他これに準ずる棚卸資産の取得に要した費用の額は、当該棚卸資産を消費した日の属する事業年度の損金の額に算入するのであるが、法人が事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品その他これらに準ずる棚卸資産(各事業年度ごとにおおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものに限る。)の取得に要した費用の額を継続してその取得をした日の属する事業年度の損金の額に算入している場合には、これを認める。(法人税法基本通達2-2-15)

 在庫計上が省略できるものは消耗品等であって、商品、製品(製品を構成する材料や部品を含む)については省略することができません。会計上、重要性の乏しいものは本来の厳格な処理をしないことができるというものですが、裏返せば重要性の高いものは厳格な処理が求められるということです。重要性が高いか低いかの判断基準は、金額の大小もありますが、ここでは、販売品や販売品を構成する部品などは重要性が大であり、重要性の原則の適用外として本来の処理を求めているものと考えられます。

 「消耗品等」とは何を指すか、というところも疑問の多い部分です。一般には作業用消耗品、包装材料、事務用品、見本品、無償配布のパンフレットやカタログといったものが考えられるでしょう。郵便切手や収入印紙は金銭と同一と考えられ、「在庫計上を省略できる消耗品等」には該当しないと考えられています。
商品等の評価損
 商品や原材料といった棚卸資産の評価は、原則として"原価法"を適用します。原価法とは、在庫商品の金額の計算に当たって取得価額で計算する方法です。これに対して、"低価法"があります。低価法とは、原価法により評価した金額と期末における時価とのいずれか低い価額をもってその評価額とする方法です。(法人税法施行令28条)
 低価法を採用するに当たっては、棚卸資産の評価方法の届出書を所定に期限までに税務署に提出する必要があります。

 上記の低価法とは別に、商品等が災害により著しく損傷した場合や、流行遅れなどで著しく陳腐化した場合にその商品等の価額を切り下げることができます。(法人税法第33条第2項、法人税法施行令第68条)

 この場合、実務上の問題は「いかなる場合に価額の切り下げができるのか」という点に尽きるでしょう。通達では下記のような記述があります。

 「当該資産が著しく陳腐化したこと」とは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいうのであるから、例えば商品について次のような事実が生じた場合がこれに該当する。(法人税法基本通達9-1-4)
(1) いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであること。
(2) 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと。

 パソコンなどはモデルチェンジが激しく、半年経過すれば陳腐化するのが現状です。そのような場合に評価損が計上できるかどうかを考えてみます。上記通達では、「著しく異なる新製品が販売され」たことによって「今後通常の方法により販売することができない」ようになったことを条件として評価損の計上が認められるとしています。

 この場合に著しく異なる新製品の販売と通常の方法による販売不能の2つの条件を同時に満たす必要があるのか、ここでいう著しく異なるとはどの程度のモデルチェンジをいうのかというあたりが実務上問題になりそうです。

 手元の解説書では、「重要なことは、モデルチェンジの内容がどの程度かというこではなく、新製品の発売によって通常の方法では販売できないという事実が大切で、モデルチェンジにより、いわゆる見切り販売をするものであればこの取り扱いを適用して評価損を計上できるのです。」(山本守之著法人税の実務)という記述があります。パソコンのモデルチェンジの場合で考えると、新製品の販売によって旧型機は従来の半値程度で販売されているのを見かけます。こんな場合には評価損の計上ができそうです。