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貸倒れ

内容 ■ 貸倒れ
損金経理をしなかった場合の貸倒処理
「債務超過の状態が相当期間継続」について
保証債務と貸し倒れ




■貸倒れ

 貸したお金が返されないとき「倒された」といいます。貸倒れとは、まさに貸したお金が倒されたり商品の売上代金が支払われないときに使われる言葉です。

 法人税法でも、貸倒が発生したときは損金算入を認めていますが、損金算入時期については厳密に定められています。益金・損金算入時期の原則は「債権債務確定主義」です。貸倒の場合には、債権が消滅したときに損金算入を認めるという姿勢です。つまり、「貸倒になりそうだ、どうも返して貰えそうもない」という時点では損金算入を認められないのです。

(1) 法的に債権が消滅した場合(それに準ずる場合を含む)
 法人税法基本通達では、債権が消滅した時点で貸倒処理をすると定めています。具体的には次のようなケースがあります。(法人税法基本通達9-6-1)
イ、会社更生法、民事再生法の規定により、債権の切り捨てが決定した場合
ロ、商法、破産法の規定により、切り捨てられる部分の金額
ハ、債権者集会の協議決定など関係者の協議で定捨てられる部分の金額
ニ、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

(2) 資産状況などから判断して貸倒とする場合
 債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。(法人税法基本通達9-6-2)

(3) 一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ
 債務者について下記の事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。(法人税法基本通達9-6-3)
イ、債務者との取引を停止した時以後1年以上経過した場合
ロ、法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
(注1) 売上債権とは、売掛金等をいい、貸付金は含まれません。
(注2) 備忘価額とは、名目的な価額をいい、実質的に価額がゼロになる場合においても、その資産が存続している場合に付されるもので、貨幣の最小単位(1円)で現します。

 (1)のケースでは、法的に債権が消滅するから、会社の「損金経理」を要件としていませんが、(3)の場合には、会社の判断により貸倒処理するところから「損金経理」を要件としています。(2)の場合は次に譲ります。


■損金経理をしなかった場合の貸倒処理
 
 法人税法基本通達9-6-2では、「全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。」として、損金経理が要件かどうか曖昧な表現をしています。

 上記通達は、昭和55年に改正されており、「損金経理をした場合には、これを認める」という表現から「損金経理をすることができる。」という表現に改めました。その経緯から損金経理を絶対要件とされないとも思われます。この件については、山本守之著「法人税の実務」に詳しく記載されていますので、その一部を引用します。

 法人税法が損金経理を要件としている減価償却費や引当金は、いわゆる内部費用といわれるもので、それぞれの法人によって認識する費用の額が異なる費用という性格を有するものである。したがって、各法人がその認識する費用の額を確定決算の損金経理により宣明するするということに、その損金経理の意義があるということができる。
 その意味では、経済価値の消滅した債権の貸倒損失は、このような内部費用とは異なり客観的に確定させることが可能であるから、実定法上、損金経理を要件としていない法の下では、損金経理を経済的貸倒の絶対的な要件とすることは困難であろう。
 <中略>
ここでは、法人税法基本通達9-6-2の適用に関して損金経理を絶対要件とすることはできないが、法人が損金経理をしていないときは、債権者が貸倒という事実を認識していなかったと推定されるのです。逆に言えば、損金経理していないという事実だけで貸倒を否認できないが、この場合に貸倒の挙証責任は納税者側にあり、<中略>回収不能の立証に厳格さが要求されることは覚悟しなければならないということです。

 引用が長くなりましたが、税務当局側として損金経理していないというだけで貸倒の否認はできないが、納税者側の貸倒れの立証に困難を伴い、また、損金経理しなかったことについて利益操作はなかったかということの疑念をはらすことも難しくなります。やはり、経理担当者としては損金経理をすべきでしょう。





■「債務超過の状態が相当期間継続」について

 法人税法基本通達9-6-1(4)に「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。」とされています。ここでいう「相当期間」とは、どの程度の期間をいうのかという問題があります。

 解説書の多くは「相当期間」を3〜5年と解されると書かれています。「相当期間」とは、債務者の経営状態を見て、回収不能という判断をするための見極めの期間という意味があります。一時的に経営が悪化しても、経営改革の結果、債務超過の状態が回復する可能性もあるから、ある程度長期的に経営状態を見守る必要があるでしょう。

 しかし、被災があったり、取引先の倒産により不良債権が多額に発生し、それによって債務超過の状態になったような場合には、短期間に経営状態の判断ができることもあります。

 法人税法基本通達9-6-1(4)における主要な要件は、「その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合」であり、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続」は、その弁済不能の判断期間における債務者の状態を表しているにすぎないのです。(山本守之著「法人税の実務」より)

 すなわち、「相当期間」とは一律に3年から5年と固定すべきものではなく、回収不能の判断にあたって合理的と認められる期間と解されます。

 このように、貸倒れの判断は個別の事例ごとに異なる事情を考慮しなければならず、税務の現場では慎重に対処しなければならない事項です。


■保証債務と貸し倒れ
 
 債務の保証を引き受ける場合があります。主たる債務者が倒産して債務の弁済が不能になると、保証人が債務者に代わって弁済する義務が生じます。そんな場合にも貸倒損失の問題が発生します。

 「保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。(法人税法基本通達9-6-2注書)」として、保証債務を履行することが確実な状況であっても、実際にその履行をした後でなければの損金算入できません。

 保証債務を履行した場合の損金算入に関する判断について、興味深い国税不服審判書の裁決例がありますので、次に紹介します。

○債務保証契約に基づく保証債務の弁済額について損金算入を認容した事例
 本件債務保証契約は、各証拠資料によると、原処分庁が主張するように、倒産寸前の状態にあった会社に対する一方的救済のための契約で贈与を目的としたものと解することは困難であり、請求人が提供した担保不動産の強制執行のおそれが生じたので、やむなく債権者との間に債務弁済契約を締結したものと認められ、かつ、求償権の行使はできない状態であるから、当該債務弁済契約により分割返済のために支出した金額は損金算入を認めるのが相当である。(昭47.8.22裁決)

 両者の主張を再現すると、次のようになろうかと思います。(推定です)

原処分庁(国税当局)の主張
 本件の保証人は、倒産寸前の状態にあった会社(A社とします。)に対する一方的救済の目的で債務保証をしたのであるから、はじめから贈与の意図があった。したがって、その保証債務の弁済額は貸倒損失ではなく、A社に対する寄付金である。
(注) 寄付金の場合には、次の算式で計算した額を超える金額は、損金不算入とされ、全額損金算入される貸倒損失と大きな違いがあります。
 損金算入限度額=(資本等の金額×2.5/1000×事業年度の月数/12
         +当該事業年度の所得金額×2.5/100)×1/2

請求人(債務保証をした法人)の主張
 請求人が提供した担保不動産の強制執行のおそれが生じたので、やむなく債権者との間に債務弁済契約を締結したものであり、A社に対する一方的救済のための契約で贈与を目的としたものという原処分庁の主張は、事実の誤認がある。また、求償権の行使はできない状態であるから、その保証債務の弁済額は貸倒損失として損金算入されるべきである。

上記裁決例のように、倒産寸前で保証債務を履行することが確実な場合であっても、事情によっては貸倒損失が認められることもあるということがわかります。同時に、イエスかノーかと一律に決められない難しさもおわかりいただけると思います。


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