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資本的支出と修繕費

内容 ■ 資本的支出と修繕費
「明らかに資本的支出」とは
解体移築費用の考えかた
集中生産のための移設
屋根の葺き替え費用は修繕費となるか




■資本的支出と修繕費

 資本的支出とは、固定資産として計上することで、一時の費用とされる修繕費と明確に区別しなければなりません。耐用年数を延ばしたり、資産価値を高める支出は資本的支出とすることになっています。ところが建物の改装をする場合には、修理を兼ねて増改築をすることが多く、資本的支出の部分と修繕費の部分が混在し、実務上はその区分が難しいものです。

 そこで、その区分が明確でない場合、実務上は次のようにある程度形式的な判断基準を設けて、資本的支出としない(修繕費など当期の費用とする)ことを認めています。(基本通達7-8-3、同7-8-4)
 1) 一の修理、改良の費用が20万円未満のとき
 2) 3年以内の周期で改修を繰り返している場合
 3) 明らかに資本的支出である部分を除いて、60万円未満の支出
 4) その固定資産の前期末取得価額の10%以下の支出

 また、継続適用を条件として、改良等で「明らかに資本的支出」となる場合を除き、支出額の30%と前期末取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費、残りを資本的支出とする処理も認められています。(基本通達7-8-5)

 「明らかに資本的支出」に該当する場合や「明らかに修繕費」となる場合には、議論の余地なく、固定資産や修繕費とされますが、あいまいな場合に問題となるわけです。そこで、以下「明らかに資本的支出」と「明らかに修繕費」について考えます。


■「明らかに資本的支出」とは
 
 「明らかに資本的支出」かどうかの判断においては、次の法人税法基本通達が参考になります。

 資本的支出の例示(基本通達7-8-1)
次の金額は原則として資本的支出に該当する。
1、建物の避難階段の取り付けのように、物理的に付加した部分の費用
2、用途変更のための模様替えなど、改造改装に直接要した費用
3、機械の部分品を特に性能の高いものに取り替えた場合、通常要すると認められる費用の額を超える部分

 たとえば、3のケースで高性能の機械部品の取替費用が250万円かかり、従前の部品と同様の性能のものに取り替えた場合に100万円であったと仮定すると、100万円が修繕費、差額の150万円が資本的支出となります。

 この通達においても「原則として」の記述が示すとおり、例外があることを念頭に置いて判断する必要があります。税法は他の法律に比べて、解釈の曖昧さを極力排除している(明定主義)といわれますが、個別の部分では解釈の余地が多く見られます。


■解体移築費用の考えかた

 解体移築費用の取り扱いで「旧資材の70%以上を再使用した場合」とは、基礎など移築不可能な部分を含めたところの70%か、移築して使用可能な資材の内の70%かという解釈の問題があります。

 もともと、建物修繕費とは従前の建物と同一性を失わない場合に限られるのであって、性質、形状が変わったときは資本的支出となる。そこから考えれば、建物の場所が変わっただけで、ほとんど従前の建物と同じという場合にのみ「修繕費」とされることにる。旧資材の30%を越えるものが使用不可能または使用しなかったとすれば、もはや旧建物と同一性を失ったものと考えなければならないでしょう。

 結論としては、基礎など移築不可能な部分を含めたところの70%以上を再使用した場合に限り「修繕費」となるでしょう。もともと移築不可能な部分のみで30%を越えるような建造物を解体移築したとしても修繕費となる余地がない考えられます。昨今、建設業者が古材を使用しなくなって解体移築はお目にかからなくなり、このような議論も過去のものとなってしまった感もあるが、修繕費の考え方を理解するには格好の教材です。


■集中生産のための移設
 
 集中生産のための移設か否かという判断は主観を伴うこともあって、税務の現場で問題の起きるところです。

 機械の移設費は原則として移設時の費用とされます。しかし、集中生産や立地条件の改善のための機械装置の移設費は、機械装置の取得価額に算入されます。この場合でも、移設費が移設直前の帳簿価額の10%以下のときは、その事業年度の損金に算入することができます。(法人税法基本通達7-8-12)

 新規の設備の導入に伴って、既存の設備を配置換えするための移設は、集中生産のための移設に該当しません。(法人税法基本通達7-8-12(注))この場合には、移設費を修繕費とします。この場合でも新規設備の導入を機会に、大がかりな配置換えをする場合には集中生産のための移設と判断することになるでしょう。

 以上の関係を整理すると、以下のようになります。
(1) 移設費が移設直前の機械等の帳簿価額の10%以下・・・修繕費
(2) 移設費が移設直前の機械等の帳簿価額の10%超
  イ、集中生産等のための移設・・・・・・・・・・・・・資本的支出
  ロ、上記以外・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・修繕費

 (2)のロに該当する場合、それが集中生産等のための移設でないことを税務当局に納得してもらうことが難しいと思われます。ガスタンクや貯水槽の移設のように多額の費用がかかるときなど、新設備の導入に伴う付随的な移設であることをどう説明するかあらかじめ考え、説明のための資料を保存しておくことが大切です。移設前後の写真や見取り図も重要な説明資料となるでしょう。

 移設費が資本的支出とされる場合には、機械の旧据え付け費の帳簿価額が損金とされることはいうまでもありません。また、移設費が修繕費とされるときは旧据え付け費を損金とすることはできません。


■屋根の葺き替え費用は修繕費となるか
 
 引き続き「資本的支出」と「修繕費」についてとりあげます。今回は、屋根の葺き替えはどんな場合があるか。それぞれの場合の税法上の取り扱いを考えてみます。

 屋根の葺き替えでは次の3つのケースが考えられます。
1、雨漏りする部分だけの部分的な葺き替え
2、屋根の痛みがひどく一部の葺き替えでは、近い将来別の部分の葺き替えが必要になると見込まれる場合の全面的な葺き替え(材質は従前と同じ)
3、2と同様のケースで、材質を変更した場合(トタン葺きから瓦葺きへの変更など)

 1の場合には、葺き替え費用の全額を「修繕費」として問題ないでしょう。

 2の場合には、税務当局は費用の全額を「修繕費」とする処理を素直に認めないのではないかと思われます。しかし、私は全額を修繕費処理してもいいだろうと思います。痛みのひどい部分だけの葺き替えでは、将来さらに修理を重ねる必要があり、この際、全面的葺き替えをした方が結局は経済的であろうことは推測でき、数年を通算したとき修繕費用を低く押さえる効果があります。雨漏りする箇所ごと一部の葺き替えを繰り返したときは、「修繕費」でOK、全面的葺き替えの場合には、全額の修繕費処理を認めないという主張には説得力がありません。なお、これはあくまでも私見です。実際のこのようなケースの場合には税務署や税理士に相談して処理して下さい。

 3の場合には、葺き替え費用の全額を「修繕費」とする処理は問題があります。明らかに「価値を高める」と認められるから、資本的支出があったと判断すべきでしょう。この場合には、修繕に通常要すると認められる費用の額を「修繕費」、それを超える部分を「資本的支出」ということになるでしょう。(基本通達7-8-1)



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