web会計事務所amano法人税実務講座>現物給与と福利厚生費

現物給与と福利厚生費

内容 ■ 現物給与
制服、作業服の貸与
食事の支給
通勤旅費・通勤手当
通勤以外の旅費
永年勤続者に支給する記念品等
会社の創業記念等に支給する記念品
社宅の家賃
慶弔祝い金の取り扱い




■現物給与

 給与は、普通金銭で支給されますが、従業員としての地位に基づいて金銭以外の物や権利を与えられたときも給与所得として所得税が課税されます。たとえば、社宅を低額で借り受けた場合や低金利の社内融資などは、通常の家賃や利息との差額は給与の支給があったものとして所得税を源泉徴収しようとというのが税法の基本的なスタンスです。これら現物給与については一定の要件を満たすものについては非課税の規定もあります。

 現物給与は、所得税法の範疇ですが会社の経営者や経理担当者にとって必要な知識であろうと考えて「法人税実務講座」で取り上げることにします。


■制服、作業服の貸与
 
 制服や作業服がある会社は多いですね。制服を与えられたことによって給与とみなされて所得税がかかるなんて考えたこともない人が多いと思います。でも、一歩間違うと源泉所得税の課税があるから、担当者の責任は重大です。

 所得税法では次のように規定されています。
 給与所得を有する者がその使用者から受ける金銭以外の物(経済的な利益を含む。)でその職務の性質上欠くことのできないものとして次に定めるものは非課税所得とされる。(所得税法9条1項1号) 給与所得を有する者でその職務の性質上制服を着用すべき者その使用者から同号に規定する制服その他の身回品の貸与を受けることによる利益  (所得税法施行令21条第2号、3号)

 「職務の性質上欠くことのできないもの」とは、警察官や守衛のように制服を着用することによって特定の職務を遂行する職員であることが判別できるものをいいますが、実務上はもう少し範囲を広げて「専ら勤務場所のみにおいて着用する事務服、作業服等については、所得税法施行令第21条第2号及び第3号に規定する制服に準じて取り扱って差し支えない。」(所得税法基本通達9-8)とされています。

 制服も昔と比べると洗練されたブレザーやスーツが多くなっていますが、そのまま通勤服にも使えそうなものは取り扱いを注意する必要がありそうです。制服である以上は社名入りとするなど、どの会社の社員であるか判別できること、上記通達にあるように専ら勤務場所のみにおいて着用することが必要とされています。

 私の知る限りでは、社名入りについてはクリアしている会社が多いと思います。しかし、制服のまま通勤している姿を見かけることはありますが、通勤服にも使うということになれば非課税の条件を満たさないことになってしまいます。従業員への徹底周知を図る必要がありそうです。


■食事の支給
 
 役員や使用人に支給する食事は、次の二つの要件をどちらも満たしていれば、給与として課税されないことになっています。なお、夜勤、休日出勤、残業などの場合の食事については、以下のように別の取り扱いをしています。 (1)役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。 (2)次の金額が1か月当たり3,500円以下であること。
   (食事の価額)−(役員や使用人が負担している金額)
国税庁 タックスアンサー 食事を支給したとき

◎残業、深夜勤務者等に支給する食事
 深夜勤務者等に支給する食事の取り扱いは、「使用者が、残業又は宿直若しくは日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限る。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事については、課税しなくて差し支えない。」(所得税法基本通達36 -24)とされています。
 したがって、通常の勤務が深夜である場合や宿日直が通常勤務である場合には課税されることになります。

◎残業食事代を金銭で支給する場合  食事の支給に代えて、食事代として金銭で支給する場合には、たとえ食事に充てるためといえども給与として所得税が課税されます。ただし、深夜勤務の場合には次の条件のものに課税されないことになっています。
(1) 食事を現物で支給することが著しく困難なこと
(2) 通常の給与に加算して支給するものであること
(3) 勤務1回ごとに低額で支給するものであること
(4) 1回の支給額が300円以下であること

 現在では、深夜営業のコンビニエンスストアなどが各地に出店しており、「現物で支給することが著しく困難」ということがほとんどないと思われます。しかし、1回300円以下とはあまりにも低い金額ですね。これでは食事代に充てられそうもありません。




■通勤旅費・通勤手当

 通勤手当が非課税だということはご存じの方が多いと思います。この場合にもすべてが非課税というわけではありません。今回はこの通勤手当、通勤旅費を取り上げます。

 通勤に必要な交通費を定期券等の現物で支給する場合も必要な額を金銭で支給する場合も同様の取り扱いです。通勤手当は通勤距離や通勤手段によって異なります。詳しくは下記国税庁のURLをご覧下さい。ここでは、国税庁のページではあまり詳しい説明のない部分を取り上げます。
電車・バス通勤者の通勤手当
マイカー・自転車通勤者の通勤手当

◎一律に支給する通勤手当
 通勤距離に関係なく全社員に一定額を通勤手当として支給する場合には、上記の非課税限度額を超える金額が給与として課税されます。

◎通勤手当を明示しない場合
 通勤手当を本給に含めて支給し、給与明細書には明示されない場合には、その全額が給与として課税されます。「通常の給与に加算して受ける通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分」(所得税法9条1項5号)は非課税です。「通常の給与に加算して」いることが必要で、本給に含めて支給している場合には該当しません。あくまでも給与明細に「通勤手当」として明示することが必要です。

◎徒歩通勤者の通勤手当
 徒歩通勤者の通勤手当を支給する場合には、その全額が給与として課税されます。「通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用」(所得税法9条1項5号)のうち一定額までの金額を非課税としています。徒歩通勤者は「交通機関の利用」と「交通用具の使用」のどちらにも該当しません。

◎非常勤取締役の通勤費用
 非常勤取締役など「常には出勤を要しない者に対し、その勤務する場所に出勤するために行う旅行に必要な運賃、宿泊料等の支出に充てるものとして支給される金品で、社会通念上合理的な理由があると認められる場合に支給されるもの」(所得税法基本通達9-5)は、非課税とされます。この場合には距離や金額に関係なく、例えば大阪在住の非常勤取締役が東京本社で行われる取締役会に出席のための交通費、宿泊費などでも非課税です。


■通勤以外の旅費
 
 職務を遂行するための出張旅費については、会社から「その旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内」(所得税法基本通達9-3)については非課税としています。
 具体的には、次に掲げる事項を勘案することとされています。
(1) その支給額が、その支給をする会社の役員、従業員のすべてを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2) その支給額が、その支給をする会社と同業種、同規模の他の会社が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

 会社においては旅費規程を定め、その規定に基づいて出張旅費を支給していると思います。その規定の内容が世間一般的なものであれば上記に該当するということです。

◎現場直行の場合の交通費
 会社に出勤することなく、自宅から現場に直行することもあろうかと思います。このような場合には、労働基準法でも自宅を出たときから通勤とされないで通常の業務という取り扱いがされています。これに合わせたわけではないでしょうが、税務でも自宅と現場の間の交通費は非課税とされています。

◎転任に伴う転居のための旅費
 転任に伴う転居のための旅行をした場合や就職、退職者が転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものは非課税とされている。(所得税法9条1項4号)この場合、家族の転居費用も同様の取り扱いとなります。

◎帰省旅費
 帰省旅費は、職務遂行、転任に伴う転居のいずれにも該当しませんから、給与所得として課税されます。たとえ、"金帰月来"の単身赴任者であっても給与課税は免れません。ただし、単身赴任者が業務上の旅行に付随して帰省した場合において、その旅行が主として業務上必要な旅行であって、その旅費が非課税とされる範囲でと認められるときは帰省の部分も含めて非課税として取り扱うことになっています。(所得税法個別通達 昭60直法6-7)





■永年勤続者に支給する記念品等

 永年勤続者に対して記念品を贈呈したり、旅行に招待することがあります。所得税法の取り扱いは次のような場合には給与課税をしないことにしています。
 使用者が永年勤続した役員又は使用人の表彰に当たり、その記念として旅行、観劇等に招待し、又は記念品(現物に代えて支給する金銭は含まない。)を支給することにより当該役員又は使用人が受ける利益で、次に掲げる要件のいずれにも該当するものについては、課税しなくて差し支えない。(所得税法基本通達36-21)
(1) 当該利益の額が、当該役員又は使用人の勤続期間等に照らし、社会通念上相当と認められること。
(2) 当該表彰が、おおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし、かつ、2回以上表彰を受ける者については、おおむね5年以上の間隔をおいて行われるものであること。

 上記の「社会通念上相当と認められる」範囲として、手元の解説書によれば「10年以上の勤続で10万円以内、30年以上の勤続で30万円以内」であれば課税しなくても差し支えないと記載されています。

◎旅行券による支給
 旅行券は有効期限がなく、また金券ショップで換金できることから、実質的に金銭を支給したのと同様の効果があるとして給与課税されます。ただし、旅行券を支給してからおおむね1年以内に旅行をし、かつ旅行券の使用状況を管理している場合には給与課税しなくても差し支えないとされています。

◎自由に選択できる記念品
 記念品に代えて金銭や商品券を支給する場合には給与所得として課税されます。カタログの中から一定限度額まで自由に商品を社員が選んで、それを会社が購入して記念品とするような場合には商品券の支給と何ら変わらないので、このような場合にも給与課税が避けられないでしょう。


■会社の創業記念等に支給する記念品
 
 会社の記念行事に際して役員や従業員に支給する記念品の扱いは次の通りです。
 使用者が役員又は使用人に対し創業記念、増資記念、工事完成記念又は合併記念等に際し、その記念として支給する記念品(現物に代えて支給する金銭は含まない。)で、次に掲げる要件のいずれにも該当するものについては、課税しなくて差し支えない。ただし、建築業者、造船業者等が請負工事又は造船の完成等に際し支給するものについては、この限りでない。(所得税法基本通達36-22)
(1) その支給する記念品が社会通念上記念品としてふさわしいものであり、かつ、そのものの価額(処分見込価額により評価した価額)が1万円以下のものであること。
(2) 創業記念のように一定期間ごとに到来する記念に際し支給する記念品については、創業後相当な期間(おおむね5年以上の期間)ごとに支給するものであること。

◎処分見込価額
 処分見込価額については特に規定はなく社会常識(社会通念上相当と認められる)の範囲内ということになりましょう。
 しかし、現実には評価が難しいことから、商品等の通常の小売販売価額(いわゆる現金正価)の60%相当額(所得税法基本通達205-9)とすることも認められています。

◎1万円を超える記念品の取り扱い
 処分見込価額が1万円を超える記念品を支給する場合には、その価額が給与として課税されます。1万円を超える金額が課税ではなく全額が課税されることに注意してください。

◎特定の者に支給する賞金、記念品
 役員や従業員のうち、成績優秀者に、会社から記念品を贈呈する場合のように、特定の者に支給する賞金や記念品については、給与所得として課税する必要があります。勤務成績が賞与等の算定の際に考慮されることが多いと思われますが、上記の賞金等と成績を考慮した賞与とは同じ性格と考えられるからです。



■社宅の家賃

 会社が、役員や従業員に対して社宅を低額の家賃で貸す場合があります。こんな社宅家賃について考えてみます。

 社宅の家賃については、下記国税庁のタックスアンサーで解説しているように、役員と従業員の場合で取り扱いが異なります。
従業員に社宅や寮などを貸したとき
役員に社宅などを貸したとき

◎借り上げ社宅の家賃
 会社がアパートの数室を借り上げ、これを社宅として用いるという場合があります。この場合でも上記URLに記載されている計算式により計算した金額を社宅家賃の最低限度とすることができます。

◎従業員の借りたアパート家賃の一部負担
 社宅の低額家賃の取り扱いは、会社所有の社宅や借上社宅の場合に適用されます。従業員が賃貸借契約を結び、その家賃の一部を会社が負担するというケースは社宅家賃の適用がなく、住宅手当として取り扱われて給与課税がされます。

◎使用人兼務役員への社宅貸与
 社宅家賃は役員と従業員の場合で取り扱いが異なりますが、使用人兼務役員への社宅貸与の場合には、役員に変わりはないことから役員社宅の取り扱いが適用されます。


■慶弔祝い金の取り扱い
 
 従業員の慶弔祝い金については、下記通達の通り原則として給与所得とされますが、「社会通念上相当と認められるもの」については、あえて課税しなくてもよいという取り扱いをしています。

 使用者から役員又は使用人に対し雇用契約等に基づいて支給される結婚、出産等の祝金品は、給与等とする。ただし、その金額が支給を受ける者の地位等に照らし、社会通念上相当と認められるものについては、課税しなくて差し支えない。(所得税法基本通達28-5)

「社会通念上相当と認められるもの」の範囲が問題ですが、手元の解説書では、結婚祝い金の場合に役付社員で5万円、一般社員で3万円程度が社会通念上相当な範囲と記載されています。

◎相当な範囲を越える結婚祝い金
 社会通念上相当な範囲を越える結婚祝い金を支給した場合には、その全額が給与所得として課税されます。ただし、相当な範囲を祝い金、これを超える金額を賞与として区分経理した場合にはその処理が認められると考えられます。


web会計事務所amanoトップページへ 法人税実務講座詳細メニューへ