web会計事務所amanoトップ>相続税対策の話

相続税対策の話

相続税対策ってどんな方法があるの?
   ■ 相続税対策のためアパートを建てた話
アパートを建てても相続税対策にならなかった話
   ■ 公正証書遺言の話
農地の生前一括贈与
借金をすると相続税対策になるの?
相続税対策と生命保険
納税資金はだいじょうぶ?



■ 相続税対策ってどんな方法があるの?
 
         
    
 相続税対策の方法は大きく分けて次の4つに分類できます。
 1、相続財産を減らす
 2、財産は減らさないで相続税評価額を下げる
 3、相続人を増やす
 4、納税資金の準備

1、相続財産を減らす
 文字どおり財産を遣って無くしてしまえば相続税はかからなくなりますが、これは対策とはいえません。相続財産は減らすけれど、一家の財産は減らさない方法として生前贈与があります。贈与すれば贈与税がかかりますので相続税と贈与税の兼ね合いで考えます。一般の贈与配偶者に対する居住用財産の贈与相続時清算課税を使う贈与などがあります。一般に預金や上場株式は分割や名義変更の容易さから生前贈与に向いている財産といえます。

2、財産は減らさないで相続税評価額を下げる
 相続税評価額は時価そのものという財産、時価の80%という財産、時価の70%という財産、中には時価の10%以程度の評価額という財産もあります。この差を利用した対策が一般に相続税対策といわれるものになろうかと思います。預金は元金に利息をプラスして評価しますから時価そのもの、宅地は時価の80%、ゴルフ会員権は時価の70%、市街化調整区域の農地や山林は時価の30%以下になることも珍しくありません。これを利用して預金という財産を土地という財産に替えることで相続財産の評価額を減じる効果があります。そのほか、よく聞かれる方法が次項(相続税対策のためアパートを建てた話)のアパート建設です。農地や山林は換金が難しいことと管理の必要性からこの方法は誰もができるわけではない相続税対策といえます。

3、相続人を増やす
 養子縁組をすると、法律上養子は実子と同じ権利が生じます。すなわち、相続する権利です。相続税法では相続人が増えれば基礎控除額も増えますが、その人数に制限を設けています。実子がいる場合には1人分、実子がいない場合には2人分の基礎控除額が認められます。基礎控除額が増えれば相続税額も少なくなるというわけです。前述したように養子は実子と同じ権利が生じますので、相続税対策だけで養子縁組をするというのはお勧めできません。

4、納税資金の準備
 この問題については、「納税資金はだいじょうぶ?」の項で取り上げます。

 以上のように、相続税対策の決定版というものはなかなかありません。リスクを伴うこともあり、どんな方法を採ったらよいかは、人それぞれの事情によって個別に検討することになろうかと思います。




■ 相続税対策のためアパートを建てた話
 
         
    
 相続税対策のため、アパートや貸店舗を建てたという話、聞いたことありませんか? 

 よくある話ですよね。確かにアパートや貸店舗を建てると相続税が安くなります。

 1億円を借金して、アパートを建てると、1億円の建物という財産と1億円の借入金が以前より増加します。建物の相続税評価額は固定資産税評価額そのものです。その評価額はおよそ建築価額の6割ぐらい、さらに賃貸物件の場合にはその30%程度の割引、すなわち、1億円で建てたアパートの相続税評価額は4,200万円となります。一方の借入金は額面の1億が相続財産から差し引かれます。アパートを建てたことによって相続税評価はマイナス5,800万円。さらにその敷地も15%程度の割引と、さらにマイナスされます。

 現実ににアパートを建てたことによって、相続税の節税ができるわけです。じゃあアパートを建てない手はないと早合点する前にもう少し考えましょう。

 ローンの期間は30年から35年、鉄筋コンクリートの建物の法定耐用年数は47年、だったら大丈夫でしょうか?
 皆さんの周りで20年以上経過したアパートの状況を見てください。新築の建物とと同じような家賃で入居率もほぼ100%のアパートがありますか? ほとんどないと思います。建物としてはまだ使えるが、賃貸となると新築と同様の条件では借り手がいないという状況です。20年も経ったアパートは、よほど家賃を下げても空室が目立つのが普通です。

 低金利時代であっても家賃収入の60%ぐらいをローン返済、残りで固定資産税、所得税、住民税をまかないます。さらにメンテナンスも必要と、90%以上の入居率でないと資金繰りに破綻が生じます。

 相続税対策のためにアパートを建てるという場合には、20年先、30年先まで考えなくてはいけません。まだ、ローンは残っているのですから。

 資金繰りに行き詰まったアパートオーナーが1棟丸ごと売りに出すケースもあります。賢い金持ちはそんな物件を安く買って、大幅な改修を施して賃貸しています。土地付きアパートの実売価額は更地価額よりも低いくらいです。それに大幅な改造を加えて新築同様の物件にしたとしても安い買い物です。

 だから、私は20年以内に返済できる見込みがあったらアパート建設も検討しましょう、とお客さんには言っています。およそ15年を超えるとメンテナンス費用に多額のお金がかかるからです。

 普段から、こんな話をしていたお客さんが鉄筋コンクリートの賃貸アパートの契約をしました。もちろん35年のローンです。どうして契約したの?と聞いたら、建設会社の営業マンがとてもいい人で絶対に間違いないと言うんですね。時々訪れては世間話をし、肩を揉んだりと、実の子供にもして貰えないような親切さにすっかりほだされた様子です。

 建設会社によっては営業マンが契約をとれば建築価額の3%とか5%の歩合で給料がもらえる会社があるそうです。少し大きな賃貸アパートは億単位の建築価額ですね。2億円の建築価額だったら600万とか1000万のマージンです。そんなに儲かるのなら私でも肩も揉みますよ。

 (上記の割引率は地域によって違います。私の住んでいる静岡県浜松の郊外における割引率です)




■ アパートを建てても相続税対策にならなかった話
 
         
    
 上の項目の続編です。 

 アパートを建たとき相続税が安くなる要因は、上記でも触れたように次の3つの要素から成り立っています。
 1、土地の評価が若干低くなること
 2、建物の評価が建築価額と比べて低いこと
 3、なのに借入金は額面金額そのもので相続財産から差し引くことができること(債務控除)
 特に影響の大きいのが、3の借入金による債務控除です。

 相続税対策のために賃貸マンションを建設したけど、長生きしてローンを完済してしまったときはどうなるのでしょう。(もちろん、長生きはめでたいことですが・・・。) この場合には、相続税対策としての効果は1と2だけになりますね。2の建物の時価(取引価額)は、20年以上も経過すると無価値、場合によっては取り壊しにかかる費用だけマイナス評価となるのが現状です。一方で、相続税評価額は建物がある限りいつまでたっても「ゼロ」になることはありません。相続税対策どころか逆効果となっていることが多いでしょう。

 アパート経営がうまくいっている場合には多額の預金が残っているかもしれません。(もちろん、これも結構なことです。) だけど、その預金も相続財産です。結果として、相続税がより多くなってしまうことがあります。相続税対策のためには、アパートを建設したら借金がたくさん残っている間に早いところ死んだ方がいいということになります。だれもそんなことを望んでアパートを建てるわけではないでしょう。

 また、長い年月を経た賃貸マンションがスラム化して、質の悪い住人(失礼)だけが居残っているということも世間にはよくあることです。こういう建物は相続人にとって厄介物でしかありません。私だったらそんな建物を相続することは辞退したいですね。

 そうならないためには計画的、定期的なメンテナンスが必要です。古くなりますと、20室程度の賃貸マンションでも壁面の塗装にン百万円、屋上の防水工事にン百万円、上下水道の補修工事にン百万円、室内の改修工事にン百万円、地デジ対応の設備にン十万円、入居者が入れ替わるつど壁や床の補修にン十万円と毎年のようにお金がかかります。そうしますと多額の預金が残るというのも幻想でしかないかもしれません。

 子孫のためにアパートを残してやろうと考えているあなた。かえって子孫から恨まれるかもしれませんよ。




■ 公正証書遺言の話
 
         
    
 公正証書遺言、相続対策の決定版のように言われていますね。 

 相続争いを防ぐためには最良の方法です。税金対策の前に兄弟間の争いの芽を摘んでおくためには、なんと言っても遺言書を残しておくことです。遺言書の中でも公正証書遺言の場合には、即座に名義変更の手続きを開始することができるので、トラブルなしで遺産相続ができます。

 それなのに、せっかく、公正証書遺言を作っておきながら、兄弟間の争いを防ぐことができなかったという話です。

 遺言書で遺産の分け方を指定します。どの財産を誰にと具体的に指定する方法があります。そのほかに、遺産の何分の1は誰にと相続割合を指定する方法もあります。兄弟間の争いを防ぐことができなかったという話とは、後者のケースです。土地でも、宅地化することができない畑は遠方に住んでいる人にとって価値のないものと考えることもあるでしょう。相続税の評価は同じでも、その人にとっての価値は違います。当然のことながら、誰でも自分にとって価値の高いものがほしい。どの財産を取るかで争いになったというわけです。せっかく遺言書を作るのですから相続人の間で遺産を分けるための話し合いをしなくてもいいようなかたちにしましょう。

 特に土地、建物、株式は個別に定めるべきです。遺言書の書き方にも注意しましょう。このあたりに気をつければ、やはり遺言は相続対策の決定版です。遺言書の書き方で不安があったらご相談ください。提携弁護士、司法書士とともにお引き受けします。

 私は、勤務時代も含めて100件を越す相続税事案にたずさわってきました。その中で、全く争いがなかったというのはおよそ2割ぐらいです。多かれ少なかれ8割はトラブルがあったというわけです。

 だから、何度でも言います。遺言書を作っておきましょう。自分の子どもたちだけは大丈夫、仲良くやっていくはずだ、と思うのは幻想です。



■ 農地の生前一括贈与
 
         
    
 農業者年金基金法の経営移譲年金を受給するために、農地の全部(一部ではいけない)を後継者に贈与することがあります。この場合には、その後継者が農業を営んでいる限り贈与税の納税は猶予されます。その代わり、相続の時点で贈与を受けた農地も相続財産に組み入れて相続税を計算します。

 相続税においても納税猶予の制度がありますから、この制度を使えばかなりの節税となります。特に都市近郊の地価の高い農地の場合には大きな節税効果があります。しかも、相続税の納税猶予の場合には、一部の農地でもOKですから、ある部分は配偶者に、また、ある部分は長男に相続するといったときも納税猶予制度が使えます。

 この制度を使う場合のリスクについての話です。

 親が子である農業後継者に農地の全部を贈与しました。もちろん贈与税の納税猶予の制度を使って。

 その後、親より先に農業後継者である子が死亡しました。その相続人は子の配偶者と孫です。親には相続権がありませんね。嫁と姑の仲がよければいいんですが、そうでないことも多いこの世の中、財産がない者の弱みで親は嫁に追い出され、路頭に迷ってしまったという現実にあった話です。

 経営移譲年金は農地を贈与しなくても、農地について使用収益権(使用貸借権)を設定する方法でも受給できますからどうしても年金がほしい場合には使用収益権を設定して、相続で後継者に譲る方法を考えましょうね。

 

■ 借金をすると相続税対策になるの?
 
         
    
 借金があると相続税が安くなるという話を聞きます。本当にそうでしょうか?

 借金したお金を遣ってなくしてしまえば、確かに相続税が安くなります。その意味では正しいといえます。しかし、それは相続税対策ではないと私は考えます。普通は借金したお金を何かに運用します。その運用の仕方によって相続税が安くなることもあれば全く変わらないこともあります。そこを勘違いしないようにしましょう。

次の例で運用形態による変化を見てみましょう。
借入金の使途 運用後の財産評価額 結   果
1億円借り入れて
   →定期預金にした
(プラスの財産)   定期預金1億円
(マイナスの財産) 借入金 1億円
変化なし
1億円借り入れて
  →宅地を買った
(プラスの財産)     土地(宅地)
        1億円×8割=8千万円
(マイナスの財産)  借入金 1億円
マイナス 2千万円
1億円借り入れて
  →豪華海外旅行に使った
(プラスの財産)          0円
(マイナスの財産)   借入金 1億円
マイナス 1億円
1億円借り入れて
   →株を買った
   その株が1億2千万円になった
(プラスの財産)   株式1億2千万円
(マイナスの財産) 借入金 1億円
プラス 2千万円

 以上のように、借金をしても運用の仕方によって相続財産の評価が下がるとは限りません。逆に運用によって値上がりすれば相続財産が増える(当然に相続税も増える)ことさえあります。運用益が出ることは結構なことですが、相続税対策にはなりません。別項目でも触れていますが、借入した資金で評価の低い財産に運用すれば相続税対策になると理解してください。
 また、借入金を全額返済できる預金があるとき、返済しない方が相続税が安くなると思っている方もいますが、同じ理由で返済してもしなくても相続税に変化はありません。預金の利息より借入金の利息の方が高いだけ損ということです。



■ 相続税対策と生命保険
 
         
    
 相続税対策として生命保険を勧められたことはありませんか?

 2つの意味で、生命保険は相続税対策に有効だということが言えます。

 1つは、相続税の納税資金です。財産の大半は土地で預金はあまりないという方もいます。そういうときに生命保険を掛けていれば、相続税を払うために土地を売ったり、借金したりということをしなくて済みます。相続税の全額でなくてもずいぶん助かりますね。

 2つ目は、節税効果です。遺族が死亡保険金を受け取ったとき、相続人1人につき500万円の非課税枠があります。3人の相続人というときは1,500万円が非課税、それを越えた部分が課税対象ということになります。この場合で、相続人の内の1人だけが保険金を受け取ったときも非課税枠1,500万円は変わりありません。

 何事にもメリットとデメリットがあります。生命保険のメリットは以上のとおりですが、デメリットは?

 保険料を長期間払い続けなければならないということは誰でもわかりますね。ところが、わかっているはずのことを考えないで契約してしまう人もいます。現在は収入があって保険料を支払うことができても将来収入が途絶えたときはどうしたら良いのでしょうか。こういうことも考えてから契約しましょうね。生命保険というものは中途解約すると損をするものが多いものです。(注)

 預金などで相続税の支払ができる人は、生命保険は非課税枠程度の保険に加入すれば良いでしょう。納税資金を目的とするときも保険料を支払い続けることができるかを慎重に考えましょうね。私どもの事務所でも生命保険の代理店をしていますが、保険加入を希望する人に「もっと少ない契約でいいですよ」と言うと、「商売っ気がありませんね」と言われます。でも、長いお付き合いになりますから将来の保険料支払が不安な方や不必要に高額の保険は勧められません。商売っ気がないと自分でも思います。

(注) 生命保険の中には長期平準型定期保険のように解約を前提とした保険もあります。こういう保険は中途解約が損とは言い切れません。



■ 納税資金はだいじょうぶ?
 
         
    
 重要な相続税対策のひとつに納税資金の準備があります。

 相続が発生すると、10ヶ月以内に相続税の申告、納税をしなければいけません。相続税を納められるだけの預金や上場株式があればいいのですが、相続財産の大半は土地という場合には、納税が問題になります。こんな場合には、土地を売却して納税資金を作るとか、土地そのもので納税するという方法(物納)もあります。

 問題になるのは、保有する土地に次々とアパートなどを建設して更地(建物の建っていない土地、空地のこと)が残っていない場合です。中古アパートの1棟売りの相場は土地値(更地価額)を下回ることも多いので、アパートを売却して納税資金を作ることは選択肢に入れない方が良いでしょう。

 延納という方法もありますが、相続税額が億単位になると20年分割しても、ローンの残っているアパートの家賃やサラリーマンの給料から支払可能な規模ではなくなるので、これも選択肢となりにくいものです。納税資金対策の重要性が御理解いただけると思います。

 土地の有効利用、相続税対策と言って、アパート建設を建設会社の営業マンがさかんに勧めますが、行き過ぎた相続税対策にはこんなリスクもあります。納税資金を作るためにアパートを格安で手放すことになって、更地のまま残せば良かったと後悔することもあります。何のための相続税対策かわかりませんね。

 納税がスムーズにできるように考えるのも、財産を残す人の義務です。預金などで納税資金が十分あれば問題ありませんが、そうでない人は、せめて、相続税を支払うことができるだけの売却可能な土地を残しましょう。






 web会計事務所amanoトップへ