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なぜ今、特別徴収か



 今、総務省が号令をかけて、全国の自治体が住民税の特別徴収に取り組んでいます。

 会社は、従業員の給料から住民税を天引きして納税者(従業員)本人に代わって自治体に納付するのが特別徴収というものです。これに対して、納税者本人が直接納付することを普通徴収といいます。

 特別徴収は給料の支払者に義務付けられている制度ですが、小規模の企業については、会社の任意に近い状態で長年取り扱ってきました。それが、なぜ今急に従業員2人、3人という企業にまで特別徴収を推進するのでしょうか。今回は、そこを考えてみます。

 地方税法第321条の3において、「ただし、当該市町村内に給与所得者が少ないことその他特別の事情により特別徴収を行うことが適当でないと認められる市町村においては、特別徴収の方法によらないことができる。」明記されており、この規定に基づいて、小規模の企業については特別徴収としないことを認めていたものと思われます。この法律は現在でも廃止されていないにもかかわらず、ごく小規模の企業にも特別徴収を推進する理由はどこにあるのでしょうか。

 最初に、特別徴収制度のメリットとデメリットを挙げてみましょう。
 1、メリット
  (1)  従業員にとって、金融機関へ納税に出向く手間を省くことができること。
(2)  特別徴収は年12回なので従業員の1回あたりの納付額が少ないこと。
(3)  自治体にとっては滞納の未然防止が期待できること
 2、デメリット
  (1)  会社にとって、原則として毎月の納税の手間がかかること。
(2)  従業員の入社、退職のつど手続きが必要なこと。
(3)  年末調整や確定申告のの扶養控除などが間違っている場合には、納付額の変更通知が送付されて給料からの天引き額を見直して当初の通知額に追加して天引きしなければならないこと。
 
 また、特別徴収制度には大きな問題点があります。その主なものを挙げてみましょう。
1、  従業員が所得税の確定申告をしている場合には、その確定申告の情報が会社に送付されること。
 確定申告の際に、給与所得以外の住民税を自分で納付する(普通徴収)と記載すれば、会社に送付される住民税の納付額決定通知書には給与所得だけが記載されますが、上記「メリット」の(1)と(3)はメリットでなくなる上、給与分は特別徴収、その他の所得については普通徴収と、同一人に対して2重の徴収手続きをすることになり、自治体の事務負担が倍増します。
 こうして事務負担が増大しても全て税金で賄われるから自治体担当者としては何ら困らないということでしょうか
2、  所得税の確定申告の情報の中身は「どんな種類の所得があるのか」をはじめ、究極の個人情報といえるものが満載です。今、個人情報の保護を強く言われていますが、そんな確定申告の情報を記載した通知書を会社を経由して従業員に渡されるのです。(注)
3、  住民税の納付を遅れると、会社にペナルティが課されます。従業員から預った税金を納めないのは横領だということでしょう。
 ペナルティは、延滞金のほか地方税法第324条第2項で「納入すべき個人の市町村民税に係る納入金の全部又は一部を納税しなかった特別徴収義務者は、3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金とする」と規定されるもので、たいへん厳しいものです。
4、  従業員の入社、退職の際の手続きを失念すると面倒なことになります。たとえば、従業員が退職した際の手続きを忘れると、その後も退職した元従業員の住民税を会社が払い続けるといったことも起こりかねません。その場合には、住民税を元従業員に請求することになりますが、スムーズに支払われるとは限りません。
5、  住民税の徴収事務を行う会社にとってはメリットは何もなく、デメリットばかりです。専任の事務員がいる会社はともかく、小規模の企業では事務員を置かないで、社長が片手間に事務をこなしているところが少なくありません。そんな企業では、特別徴収は大変な負担を強いられることになります
 そのような小規模企業のために、地方税法第321条の3のただし書き(「・・・特別徴収の方法によらないことができる。)の規定があるのではないでしょうか。
 以上のような問題の多い特別徴収制度を推進する理由は、ひとえに「滞納の未然防止」という自治体の都合だけではないかと思います。従来から、滞納者に対する姿勢は、国に比べて地方は甘いといわれていました。それは、地方公共団体の税の徴収担当者の怠慢だといえましょう。その結果、滞納者の増加が自治体の財政を圧迫してきたということにほかなりません。そのツケを会社に負わされたのではたまりません。

 私の地元、静岡県の特別徴収の推進パンフレットでは特別徴収が義務であることを強調し、地方税法第321条の3のただし書きの「・・・特別徴収の方法によらないことができる。」について何の説明もありません。特別徴収推進のパンフレットには自治体にとって都合のいいことだけを記載し、都合の悪いことはあえて伏せているように思います。これは、他の全国の自治体も同様です。

 また、浜松市の、特別徴収義務者への説明資料には、「浜松市では、入札参加資格や指定管理者、一部の補助金等の申請要件に特別徴収の実施を義務づけ、浜松市が税金を使って行う事業等を利用される方が、法律に定められた義務を遵守していただいていることを確認しております。・・・」と、いうなれば、「浜松市で行う入札に参加したかったら特別徴収にしなさい。」と恫喝とも思われる表現をしております。

 民間の保険会社であれば、会社が集金を代行すれば手数料が支払われます。役所は給与を支払う会社に住民税の集金を代行させて手数料を支払わないばかりか、納付期日に遅れるとペナルティを課すという、およそ民間企業同士のお付き合いでは考えられない常識に反したものです。法律や条例を制定すれば、常識とかけ離れたことも通用してしまうのでしょうか。

 そんな、個人情報の軽視をはじめとする大きな問題を抱えている制度を、総務省が音頭をとって、都合の悪いことは伏せてまで全国の自治体が一斉に推し進める現状を恐ろしく感じるのは私だけでしょうか。

 
 (注)最近は、申告内容については個人別に封入した上で会社に送ってきます。一歩前進ですね。当然のことながら税額は会社に知らせますので、見る人が見れば会社からの給料以外の所得がどの程度あるのかはわかります。

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