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兄弟の相続税まで負担! −相続税の連帯納付義務−



 「相続税の申告をしたら自分の相続税ばかりでなく、他の兄弟がちゃんと相続税を払ったのかまで 気を配らねばなりません。」と言ったら何をバカなことと思われるでしょうか。

 相続税は、遺産をもらった人がその財産に応じて負担し納めるものです。ところが、自分が負担しなければならない相続税を納めたにもかかわらず、兄弟が相続税を滞納しているときは、その分も納税しなくてはならないことがあります。「自分の分ではないから知らないよ」と突っぱねても税務署は差し押さえをして強制的に税金を取り立てます。これが相続税の連帯納付義務というものです。

 連帯納付義務は相続税法34条において「同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる。」と定めており、裁判所や国税不服審判所に訴えてもことごとく負けているのが現状です。

 この連帯納付義務には大きな問題をはらんでいます。

 第一に、自分の負担する相続税を完納しても他の相続人が滞納ていると、ある日突然納税の告知がされることがあります。これに異議があっても、前述のとおり差し押さえをしてでも強制的に税金を取り立てるのです。

 第二に、相続税は最長20年の分割納付(延納)が認められます。延納の期間中は時効が進行しません。長期にわたって他の相続人が負担すべき相続税を自分が負担しなければならないかもしれないという不安定な状態が続きます。しかも、他の相続人が滞納しているのかどうかの確認をしようとしても、税務署は個人情報の保護を理由に開示を拒否します。自分が肩代わりすることになるかもしれないというのに滞納状況の確認もできない有様です。共同相続人が互いの納付状況を常に把握し未納者には納付を促す、あるいは納税資金を預かって納付するなどの対策を事前に打つこともできません。

 第三に、相続した財産を超えて相続税を納めなければならないことがあります。土地を相続した場合に当時から値下がりしていることは最近では珍しくありません。そのような場合でも負担の限度とされる「相続により受けた利益の価額」は相続したときの価額を基にしますから、相続した土地を売却しても連帯納付義務により納めなければならない相続税に不足することがあるのです。

 第四に、親族間のつながりが希薄となっている昨今、他の相続人に自分の相続税を負担させることに罪悪感を持つ人が少なくなり、連帯納付義務の規定を設けた意味が薄れていると思われます。相続税の連帯納付義務の規定は、相続人間の連帯感に着目して設けたものでしょうがその前提が崩れているのです。

 相続税の延納や納税猶予の申請をする際には、担保の提供を求められます。国税当局は滞納している場合には担保の処分をします。競売で競り落とされる価格は、俗に半値八掛けといわれるように、正常な価格で売買できないことが多いのです。

 十分な価値(正常な価値という意味で)の担保を提供しているにもかかわらず、上記のような理由で滞納している相続税に満たないからといって共同相続人に不足分を負担を求めるのは酷ではないでしょうか。担保の取り方や担保処分の方法に問題があるのであって、共同相続人に連帯納付義務を課するような規定は合理性を欠くと言わざるを得ません。

 すくなくとも、延納や納税猶予のように担保を取っている場合には連帯納付義務を課すべきではないと思います。このような法律は早急に廃止すべきだと思うのですが、いかがでしょうか



参考となるサイト
連帯納付義務の法的問題の再検討 村上潤氏
国税不服審判所 連帯納付義務に関する裁決事例等
[マネー]All About まさか!兄の相続税まで負担
 

※ 平成24年4月以後は、申告期限から5年を経過した場合 及び納税義務者が延納または納税猶予の適用を受けた場合には、 相続税の連帯納付義務が解除されることとなりました。

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